AWSを始めよう!などで前回の技術書典でラスボスとよばれたmochikoさんが技術同人誌の商業出版についておはなしを書かれていて、とても面白かったです。
一方で技術書典シリーズを出版されているインプレスR&Dの山城さんも書かれている通り、技術書界隈という特殊な市場においては、「商業出版」と「技術同人誌」の間もあるのではないかと僕も思っていて、そのあたりを解説しようと思います!
良記事。商業も同人もその間の形態も著者が考える最適なものを選べる良い状態なのが今の技術書界隈なのだと思う。契約書は気を使います。#技術書典
— 山城敬@インプレスR&D (@kurakake) February 13, 2019
技術同人誌のハッピーエンドは「出版社の編集者に見初められて商業出版!」だけとは限らないという話|mochikoAsTech|notehttps://t.co/3bBwRpl1N6
そもそも商業出版とは?
※何を持ってして「商業」「同人」と呼ぶのかは人に寄ると思うので、ここでは「商業出版」を「出版社が版元となって本を出版すること」と定義して話を進めます
このようにmochikoさんの記事ではありましたが、本記事における商業出版は「ISBNコードを取得して流通させること」「出版権の契約を締結すること」の2点をもって商業出版と呼ぶことにします。
前者は「物理的な本の流れ」、後者は「お金と権利の流れ」ですね。
ISBNコードと流通について
本が著者から読者に届くまでにはいくつかの経路がありますが、基本的には
出版社→ 印刷所→書籍卸→書店→読者
という経路を通ります。Amazonの場合は卸を通さないこともあるみたいですが、基本的にはこんな感じです。ここで全国の書店のレジで扱えるようにするシステムが、ISBNコード(書籍の裏にあるバーコード)です。
これは申し込めば有料で取得することができ、出版社はたくさんコードを持っています。(小規模だとまずは10-100個くらいしか取れないらしい)これがあることで、卸業者を通じて全国の書店に出すことができるんですね。
じゃあBOOTHで売られている同人誌は?
少し余談ですが、AmazonとちがいBOOTHやとらのあなで売られている同人誌はどうでしょうか。こちらはすべて商業流通の観点では「書籍のような形状をしているグッズ・冊子」として扱われているため、その他の書店で基本的に扱うことができません。
もちろん個々のお店で特別に扱うことは可能ですが、それはそのお店の商品データベースにいちいち追加して、そのお店のレジだけで使える番号を発行してもらっているわけです。
ここまでがまず物理的な本がどのような流れで読者に届くかです。
出版権とは?印税とは?
次に、本が売れたのでお金を著者まで届けなければいけません。ここで登場するのが出版権と印税というシステムです。
印税のざっくりとした仕組み
まず、わかりやすい印税から説明すると、「売れた本の割合に対する著作権使用料」になります。もともと著作物はこの世に1つで、本はあくまでそれを複製したものと位置づけられます。そのため、複製に関する著作権料を出版社は著者に支払うのです。
多くの場合は、出荷の単位でその8%とか10%とかが設定されます。だいたい技術書だと2000部~3000部を初版にすることが多いと思われますので、2000円の本を3000部出荷すると、著者に50-60万円はいるわけですね。増刷すると追加で500部とか出荷した単位で印税が入ります。*1
よくある誤解なのですが基本的には「お店で売れた数」ではなく「卸に向けて出荷した冊数」になります。ただしニッチな本などはリスクに応じて「売れた分だけ」の契約割合が増えると聞きます。
ちょっとややこしかったのでお金の流れを整理すると
読者→(商品代金)→書店→(仕入れ代)→卸・出版社→(著作権料)→著者
ですね。再販制度という仕組みがあるので本当はもっとややこしいのですが、簡略化するとこんな感じです。イベントでの同人誌手売りやBOOTHの場合はもっと簡単で
読者→(商品代金)→BOOTH→(システム手数料引き後商品代金)→著者
となります。あくまで読者に著者が直販していて、BOOTHはシステムという立て付けです。*2
出版権とは
商業出版のうち、難しいし悩むポイントがこの出版権です。出版権とは要するに、「この世に一つしかない著作物を複製(印刷)したりダウンロードさせたりする権利を独占的に契約しますよ」というものです。
この独占というやつが弊害で、契約した出版社が「うちはAmazonやってないんだよねー」と言われても、自分でAmazonと契約したりすることは契約書に書いていない限りできません。
その代わり、出版権をもつものは、勝手に海賊版が流通していたらそれを差し止める権利を有します。
とはいえ、この流通が複雑化している時代、この独占というのが著者からすると悩ましいのではないでしょうか。たとえば著者自身がブログで1章無料公開したい場合も、出版社の許可が必要になってしまうのです。
つまり、全国の書店に並べることができる商業流通の可否、ある程度のリスクを分担する印税契約、それと独占契約を結ぶかどうかがポイントとなりそうですね。
じゃあタイトルにある商業出版と同人誌の「間」って、どういう契約形態、出版方式ができるんだっけ?
長くなってきたのでその2に続きます。