先日、こんなtweetをしたらおもったよりRTされてしまったので、他にも過去の経験で値付けについて学んだことを書いてみたいと思います。多くは行動経済学の本とかに出てくると思うのですが、実例ベースで。
月間数百万円つぎ込むユーザーのおかげで無料で遊べる人が1万人いるなら、富の再分配という観点で素晴らしいシステムなのではないか。とソーシャルゲーム時代以降のモノの価格について考える。
— kusuke (@ku_suke) 2016年11月17日
サービス設計で値付けに迷ったり、そもそも課金モデルにするか広告モデルにするか悩んでるときの一助となればと思います。
1.周囲の値段との「差」を意識して引きずられてしまう。
アンカリング効果というやつですね。ぼくがマーケティングの世界に興味を持ち始めたiPhoneアプリ黎明期に社内で話が出ていました。AppStoreで、有料アプリランキングに100円アプリが並んでいると、300円がすごく高く見えてしまう。
しかし、300円で買い切りで何年も使えるって普通に安いですよね。スタバのカフェラテより安いじゃないですか。
逆に、3千円の上コース、1500円のセット、900円の単品とか松竹梅で並べられると、1500円と900円の2択の時より1500円を選ぶ人が増えるようです。
なので、ユーザーがその製品カテゴリの価格にどのようなものを期待しているかどうかで、値付けは変えないといけません。
価格の方を動かせない(コスト構造上無理!)となると、サービス側の建付け、見せ方を変えて製品カテゴリの方をずらす必要があります。他のサービスと比較表に入れられないように逃げるのです。
2.ソシャゲは富の分配か?極端な客単価の差を生み出す時代
こちらが先のツイートになります。他の例では海外の月額系サービスで、数年前から「結構いい値段するな・・」「ちょっと高いな」と感じるようになったのですが、自身でも法人向けのASPサービスを何年か前に運営してみて、その理由に気づきました。
無料プランのユーザーを養うには、有料ユーザーに10人分は最低払ってもらわないと困るんです。無料ユーザだって最低限のサーバリソースと、問い合わせ対応などの人的コストがかかります。更に人数だって多いし、、、。そのコストは有料ユーザに払ってもらうしかありません。
なので、フリープランがない(○日間フリートライアルは別)サービスは、意外と価格の段階が緩やかなのですが、フリープランがあるサービスは、オトクな売れ筋プランを一歩超えると急激にボッタクリ感が出る気がします。
もちろん、それらの背景に対しては、ごく一部の大企業しか利用しない機能をわざわざ作ってあげてるんだからコレくらいは払ってね、というコストから逆算した設計ももちろんあると思いますが。
3.原価率は素人の肌感より低く押さえる。値付けには宣伝費を考慮しておくこと。
こちらは自身の運営ではないのですが、とある企業では月額3000円の商品の購入者を得るために、無料またはほぼ赤字の価格でまずはトライアル購入を獲得します。が、その獲得コストが1人あたり1万円弱とか広告費使っていたりします。
つまり、予測されるLTV1万円の場合に、それを少し下回る広告費でトライアル獲得できれば良いという考えです。LTVとは簡単にいうと課金額×継続率で、50%の確率で12か月毎月買ってくれるので、利益2万円として×50%の1万円という式になります。
この場合、12ヶ月3万6000円の売り上げで利益が2万円なので、原価は約1万6000円、44%です。製造以外にかかる費用が50%とすると純粋な原価は22%ですね。素人考えではぼったくりな気もしますが、業界によっては流通コストなどにより純粋な原価に22%もかけたら大赤字というところもあるでしょう。
広告費をどれくらい使うかと、単発ではなく継続した売り上げがどの程度入ってくるかも逆算して値付けをしないといけないのです。
4.割引ではなく追加でプレゼントする
売値1万円、原価5000円の商品を15%引きで売るのと、1万円に20%ポイントをつけるのはどちらがサービス運営側にとってお得でしょうか。
なお、資金決済法があるのでポイントは半年で消滅する、あるいは市価で20%相当の品でも構いません(ポイントを行使すると考えれば同じですね)。
- 1万円の商品を15%割引にすると、売り上げ=8500円、利益3500円です。
- 20%のポイントを提供すると、まず売り上げ1万円、利益5000円、会計上の負債が2000円になります。
-
- その後、半年たって失効すると、負債が消えます。
- ポイントではなくおまけを提供すると、2000円の商品の原価が利益から消えます。ここで原価が1000円の商品の場合利益が(5000-1000で)4000円になり、15%より提供側がお得になります。
ここで重要なのは、見かけ上15%引きより20%プレゼントのほうが買う側からみて何となくお得そうに見えるのに、提供側からすると割り引くよりプレゼントしたほうがお得ということになります。
しかも、ポイントの場合は会員囲い込みで再来訪の可能性が上がりますし、Dropboxみたいなデジタルサービスは、上限容量をひきあげても、上限いっぱいまで使うユーザは少ないので実際の原価負担は大幅に少ないと考えられます。
5.本質的な価値とお金を払う価値は違う事もある
以前、1万円の価値(と企業規模と業務システム)のはなし というエントリを書いたのですが、使いたいサービスがあっても企業でクレジットカードが使えないからちょっと、、という話です。
ここではサービスの価値(使いたいクラウド)と、お金を払う価値(日本の商習慣にマッチしている)が微妙に異なってるといえます。
また、個人的にシステムのコンサルをしていた時も、自分が楽勝だけど利益率が高い部分(たとえば簡単なプログラミング)と、自分がめっちゃ頑張るし価値があると考えてる部分(戦略立案と調査とか)に難色を示されて結局サービスでやったりといったことがありました。
顧客に理解してもらえないけど大事なポイントを無償あるいは安く提供するために、顧客が理解してお金を気持ちよく払ってくれる部分で多めに利益を確保するということが双方にとって幸せなのだなと感じました。
以上、商品のプライシングは難しいとよく言われますが、自分で感じたことを整理してみました。